昨日の出来事。
大学での授業を終えて、図書館でレポートの文献を探して、身支度をしてお気に入りの古着屋さんへ向かった。古着屋さんの後はご飯を食べて、映画を観に行く予定だ。
古着屋さんへは、もうかれこれ3年くらい不定期で通っている。とても落ち着く古着屋さん。駅から10分もかからない程度の場所にあって、このお店の他にも古着屋さんが集まっている。駅を降り、メインの通りを抜けて、脇道にそれて、更に真っ直ぐ歩いて右に曲がると見えてくる。お店のお姉さんたちとも顔馴染みで、お話をするのが楽しい。
ああ、こんな風に居場所って出来ていくんだなあとおもう。
そこは素敵な洋服を見る場所でもあり、近況を話す場であり、お互いの他愛もない話をし合う場所。
私はお酒を飲むのが好きだけど、決まったお店はまだない。東京に住んでいないのが大きいなと思う。もしもこの先に東京や大きな都市に住んだら、近所にふらっと入れる居酒屋さんやバーが欲しいな。そしたらそこは、私のお気に入りの古着屋さんと同じように、私の居場所になるだろう。
その古着屋さんに向かう手前に、もう一つ気になるお店がある。古着色が少し強めのお店で、躊躇してしまって入ったことがなかった。
私には自意識過剰すぎるところがあって、人からどう思われるかを気にしすぎるところがある。それに恥ずかしがり屋。だからこのお店の店員さんにも服の系統が合わないだとかそういうことを思われるかなあと思ってしまって入れなかった。
でもどうしてだか昨日、気になり始めて1年越し程でやっと、このお店に入ったのだ。
昨日の大事な出来事は、ここで起きたことだ。
お店に入ると店員のお姉さんと軽い挨拶をした。私は挨拶が苦手、目を逸らしてしまった。お姉さんは思ったよりも年上で、目があった瞬間、彼女も引っ込み思案というか、同じシンパシーを感じて安心したけれど、それでも緊張しながら洋服を見た。
肝心のお洋服。ぱっと見とても好みだ。期待を裏切らない。
一目見た瞬間に着てみたくなった服があった。紺のノースリーブ。胸元に刺繍がある。
そして私は壁に沿ってかけてある洋服を一通り見終わる。
どうしようかな、試着しようかしまいか。ゆっくりぐるぐる回りながら考えた。
時間はあった。
迷うのは、試着をして断るのが苦手だからだ。洋服を手に取る〈 鏡の前で当ててみる〈 試着の方式。
試着までして買わないのは申し訳ないと思ってしまうのだ。
でも合わないのに買うわけにもいかないから断るのだけど、それが苦しい。
期待を裏切ること。裏切った罪悪感が後を引く。
でも…
試着することにした。
お姉さんは意外な顔をした。嬉しそうだ。
そんな風に 意外だと思うことを隠さないのがとてもいいなと思った。あるいは隠せないのかも知れない。そのどちらでも、とてもいいな。
民族衣装に使われるような布で覆われた試着室で試着をすると、可愛かったけれど私には合わないなあと思ってしまった。大きいし、ちょっと皺も目立つし。
こういう時、試着室を出ると試練の時が待っている。
断らなければいけない。
悲しむかなあ、期待をさせてごめんなさい。
残念さが少し透けて見えるのが苦手だ。ごめんなさい。人によっては買わないのかと責められている気になることもある。
気が重いが仕方ない。
試着室を出る。
お姉さんに声をかける。
すみません、ちょっと大きさが合わなくって…
すると、お姉さんは言った。元気付けるように。
"着てみないとわからないですから。"
不器用なお姉さん。古着のワンピースを着ているお姉さん。
お姉さんはこれまで試着をして買わないことに罪悪感を持っていた私を、この一言と彼女の表情、心体で救ってくれた気がした。
また来ます、精一杯この意味を込めた笑顔でお店を後にした。
言ってないから伝わってるわけないけどでも伝わっていて欲しい。
嬉しい、この日一番嬉しかった。
小さな小さな出来事。何も起こってないようで、大きな出来事だった。
お姉さん、またお店に行きますね。